以前、AI格差とその対策について記事を書きました。
この記事ではあまり触れませんでしたが、もしかしたら「質問力」の差も、AI格差に含まれるかもしれません。
AIが良い回答をできるかどうかは、人間が良い質問をできるかどうかにかかっているからです。
「じゃあお前は良い質問できるんか」
と聞かれると…まあ、できない…。
会議やセミナーの最後にほぼ必ず聞かれる、
「何か質問はありませんか」
という質問に、私は毎回すごい困っていて、
「何も聞かないと失礼かな…?
でも質問が何も浮かんでこないんだよな…
話はちゃんと聞いてたのに、なんでだろ…?」
とか考えてるうちに終了して、毎回なんにも質問できずに終わる。
たぶんこれ私だけじゃないよね…?
でもそういう中でたまに、
「良い質問ですねぇ」
と某池上さんに言われそうな、クリティカルな質問ができる人がいますよね。
この違いは生まれもったもの?どうにか埋められないものなんでしょうか?
いろいろ調べてみました。
この記事を読めば、脳の仕組みを理解し、AIを使って後天的に質問力を磨く具体的な方法がわかります。
なぜ質問が出てこない?
私たちがセミナーの直後などでとっさに質問が出てこない理由は複数あるようです。
(一緒にするなって感じだったらすみません)
ワーキングメモリの容量制限(情報を処理しながら質問を作るのが難しい)
ワーキングメモリとは、
今まさに聞いている情報を保持し、理解し、操作する脳の機能です。
講義や会議の直後は、
- 内容を理解する
- 要点を整理する
- 全体構造を把握する
これだけでも私たちの脳みそは大変なのに
その状態でさらに、
- 疑問点を見つける
- 言語化する
- 質問として構成する
という処理を同時に行わなければなりません。
Baddeley, A. D. (1992)
Working Memory
Science, Vol. 255, Issue 5044
https://www.science.org/doi/10.1126/science.1736359
この論文では、
ワーキングメモリは容量が限られており、
複雑な認知処理は同時に実行できる量に制限がある
と述べられています。
セミナー・会議等の内容の理解・整理と、質問の発見・言語化を『同時進行』で行うのは、ワーキングメモリの負荷が高い状態だと考えられます。
人は「理解していないこと」に気づくのが苦手(メタ認知の限界)
メタ認知とは、自分が理解しているかどうかを把握する能力です。
人は理解していない場合でも、「なんとなくわかった気がする」と感じやすいことが知られています。
Rozenblit, L., & Keil, F. (2002)
The misunderstood limits of folk science: illusion of explanatory depth
Cognitive Science, 26(5), 521–562
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3062901/
この研究では、
特に『物事の仕組みの説明』に関して、人は自分が実際よりも深く理解していると錯覚しやすい
と示されています。
自分はちゃんと内容をわかってる、理解できていると勘違いしてしまいやすいのですね。
この状態では、自分が何を理解していないのか自覚できないから、質問を作りづらいことが考えられます。
社会的評価への不安(心理的安全性の問題)
メンタル的な理由も考えられます。
人前で質問すると…
- 間違える可能性
- 無知を露呈する可能性
がありますよね。
Edmondson, A. (1999)
Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams
Administrative Science Quarterly
https://web.mit.edu/curhan/www/docs/Articles/15341_Readings/Group_Performance/Edmondson%20Psychological%20safety.pdf
この研究では、
心理的安全性が高いチームほど、質問や助けを求めるなどの『対人リスクを伴う学習行動』が活発になる
ということが示されています。
心理的安全性とは、チーム内で自分の意見を安心して発言できる状態のことです。
裏を返せば、心理的安全性が低いチームだと自分の意見を言いづらくなる、ということ。
「何を言っても大丈夫」なんて関係性は、そりゃ初めて参加したセミナーとかじゃあ皆無ですもんね。
つまり、セミナーや会議の直後、私たちがすぐ質問が出てこないのは…
聞いた話を理解するので脳が精一杯な状態だし、
まだ完全に理解しきってない段階で「自分は理解できた」と錯覚しがちだから、
何が分からないのか分からないから質問が生まれない。
その上、「無知がばれる質問でもしてしまったら嫌だな、恥ずかしいな」というメンタル的なハードルもある。
という理由で、ごくごく普通のことなんだそうです。
私は3つ全部当てはまってたなあ…特にメンタルのが大きい。
この3つが悪循環してる感覚がよくありますね。
その場で質問が浮かんでこなくて、後日ネットで調べたり、関連書籍読んでみたりして…ようやく、
「え?これどいうこと?」
っていう、いわゆる良い質問が浮かんでくるのが、ほんとよくある。遅すぎるのよ…。
後天的に良い質問ができる人になれるのか?
メンタル的なのは環境に左右されるものの、ある程度
「これは ”良い質問” だな」
と自分の心の中で思えるようにまでなれれば、勇気を出して質問しやすくなるはずですよね。
後天的にその場で良い質問ができる人になれるのかどうかは…
- ワーキングメモリの容量そのものを大きく増やすのは難しいが、負荷を減らす工夫はできる
- メタ認知は訓練で徐々に改善できる
つまり、即効性はないものの、努力によって「良い質問を生み出す力」そのものは鍛えられる可能性があるということです。
理由を説明していきます。
ワーキングメモリの「負荷」を減らす
一時的に情報を記憶・処理しておくワーキングメモリは容量が限られていて、この容量自体を後天的に増やすのは難しいそうです。
ただ、ワーキングメモリの「負荷」を外部に移すことで、実用上の差を大きく縮めることは可能だと考えられています。
参照元:
Clark, A., & Chalmers, D. (1998)
The Extended Mind
Analysis
https://doi.org/10.1093/analys/58.1.7
例えば:
- メモを取る
- 図にする
- AIに整理させる
これらはすべて、ワーキングメモリの負荷を外部に移すアクションです。
そういや記者会見とかで質問しまくってる記者の方達って、良い質問してるかどうかはさておき、みんなメモ取りまくってますね…?
最近だと、ミーティングの音声から文字起こしや議事録の整理までAIに任せられるので、社内会議などではこのあたりはかなり活用できそうです。
メタ認知は即効性はないものの徐々に改善できる
先ほどのメタ認知の研究では、以下のステップでメタ認知の改善が認められたそうです。
- 参加者にスピードメーター、トイレ、ヘリコプターなどの「仕組み」の説明を書かせる
- ヘリコプターなら「ホバリングから前進飛行にどう移るか」など、仕組みの核心を問う追加質問に答えさせる
- その参加者に専門家の説明を読ませて、自分が書いた説明と比較させる
さらに自分で説明の質を評価したり、第三者である別の参加者に説明の質を評価したり…とかもしているんですが
そんなことしている時間なんてセミナーや会議中にはないから、現実的じゃないですよね…。
でも、今ならこれをいったん持ち帰って、AI相手に何度でもやることができます。
即効性はないけども、徐々に「なぜ?」「どうして?」と本質に気づく力が養われていくはずです。
AI活用で質問力を磨こう
AI相手なら、「これ言ったら恥ずかしいかな?」なんて心理的安全性だのも問題ありませんね。
さっそく、AIを活用して質問力を磨く方法を見ていきましょう。
具体例がないとわかりづらいと思うので、私たちは今、以下の問題を抱えているものとします。
あなたは「人手が足りないから」という理由で急に出身地でもなんでもない、
富士山のツアーガイドに選ばれてしまった。
あと3日で、富士山については何を聞かれても答えられるようにならなければいけない。
地元民でもかなりハードな設定ですね。
すでに自分より富士山に詳しい上に質問力が高い観光客なんていくらでも来るでしょうから、それを上回る質問力を鍛えて立ち向かわないとな。
メタ認知を改善するプロンプト
先ほど、参加者にスピードメーター、トイレ、ヘリコプターなどの「仕組み」を説明させる研究がありましたが、それをプロンプトにして実践できるようにしてみました。
「説明 → 診断 → 比較 → 再評価」
この流れを再現して、私たちが富士山について「何を知らないのか?」を浮き彫りにしていきましょう。
step1:説明
あなたはメタ認知トレーニングのサポート役です。
私は「富士山の仕組みや成り立ち」をどの程度理解しているかを正確に把握したいです。
以下の手順に従って進めてください。
【ステップ1:自己説明】
まず、私は富士山の成り立ちや構造について、自分の理解を説明します。
その後、あなたは私の説明を読んで、次の2点を行ってください:
1. 私の説明の中で「曖昧な部分」「説明が不足している部分」「理解が浅い可能性がある部分」を具体的に指摘してください
2. その理由も説明してください
ただし、この時点では正解の説明はまだ提示しないでください。
私の説明を待ってから次のステップに進んでください。
この時点でAIに待機してもらっている状態なので、自分なりに富士山についての説明を入力していきます。
ちなみにどのAIを選ぶか迷ったらChatGPTがおすすめですが、情報の参照元の信頼性など確認しなければいけない場合はPerplexity AIがおすすめです。
さて、私が入力した富士山についての説明も一応載せておきますね。
え?山ってだいたいあの形じゃん?
山って漢字だってこの形よ?
成り立ち?プレートだのがドーンでバーンじゃない?
おいアホがバレるって。
step2:診断
さて、私みたいな文言入力したらAIからボロカス言われるかと思いますが、無視してこちらのプロンプトを入力します。
【ステップ2:診断質問】
次に、富士山の仕組みを本当に理解しているか確認するための「診断質問」を5つ作ってください。
条件:
・表面的な質問ではなく、仕組みの核心を問う質問にしてください
・以下の観点を含めてください
- なぜ富士山は現在の形になったのか
- 富士山が形成された地質学的プロセス
- なぜあの場所に富士山が存在するのか
- 噴火の仕組み
各質問について:
・なぜその質問が理解度を測るのに有効なのかも説明してください
その後、私が回答するのを待ってください。
観光客に聞かれたら、まるで殴られたかのような気持ちになる5つの質問が生成されますので、回答を入力しましょう。
step3:比較
さて、富士山大好き人間でもない限りはもう心折れそうになっているかと思いますが、めげずにこちら続けてコピペしてください。
【ステップ3:専門家レベルの説明】
次に、富士山の形成と構造について、
・初心者向けではなく
・専門家が説明するレベルで
・しかし分かりやすく
包括的な説明を書いてください。
以下の要素を必ず含めてください:
・プレート構造との関係
・火山の形成プロセス
・なぜあの形状になるのか
・現在の活動状態
図は使えないので、文章だけで構造が分かるように説明してください。
わけわからん専門用語だらけの文章が生成されたと思いますが、無視して続けましょう。
step4:再評価
最後です!ここまでやってるの本当にお世辞抜きですごい!!
こちらコピペしましょう。
【ステップ4:メタ認知評価】
最後に、以下を行ってください:
1. 私の最初の説明と、専門家レベルの説明を比較してください
2. 私の理解のどこが正確で、どこが不正確だったかを具体的に示してください
3. 私の理解度を以下の7段階で評価してください:
1 = ほぼ理解していない
2 = 断片的に理解している
3 = 表面的に理解している
4 = 基本的な理解はある
5 = 構造を理解している
6 = 深く理解している
7 = 専門家レベル
4. 理解をさらに深めるために、今後考えるべき「良い質問」を3つ提案してください
いかがでしたか?
ちなみに私はこう言われました。
「あなたの理解度は:
評価:2 / 7 = 断片的に理解している
完全なゼロではありません。
これは重要な出発点です。」
おい慰めるな!もっと惨めになるから!!
…でもまあ、確かに「私が何も知らないこと」がよくわかった…。
「富士山?知ってる知ってる、日本で一番高い山やんけ」
とか思いながら始めてた自分が恥ずかしいわ。
これを終えた後では解像度がすごく変わりますね。
「なんでプレートが沈んで山ができる?」
「噴火ってどうやって起こる?」
「富士山があんなに形が綺麗すぎるのなんで?」
って、全然興味がなかった分野なのに次から次へと疑問・質問が湧いてくるようになりました。
AI専用の質問力
ここまでやってきた、「私がいかに無知なのか教えてくれ」みたいな質問って、
すごい重要なのだけども恥ずかしいし迷惑すぎるしで人間相手にはできませんよね?
人間に対しての質問力と、AIに対しての質問力はだいぶ異なりますので確認しておきましょう。
| 項目 | 対人間の質問力 | AI専用の質問力 |
|---|---|---|
| 基本目的 | 相手の知識・意見を引き出す | 望む出力が生成される条件を設計する |
| 本質 | 情報を取得する行為 | 出力を設計する行為 |
| 質問の回数 | 限られる(時間・心理的制約) | 無制限(何度でも可能) |
| 心理的制約 | 恥・評価・遠慮が影響する | ほぼゼロ(心理的安全性が高い) |
| 重要なスキル | 要点を短く正確に聞く | 条件・役割・目的を明確に指定する |
| 文脈の補完 | 相手が意図を推測して補完してくれる | 指定しなければ補完されない |
| 曖昧な質問への耐性 | ある程度対応可能 | 出力の質が大きく低下する |
| 効果的な質問の特徴 | 本質を突く、簡潔 | 制約・役割・対象・形式が明確 |
| 例(悪い例) | 「どういうことですか?」 (ただの確認になっている) |
「富士山について教えて」 (制約等の条件がゼロ) |
| 例(良い例) | 「なぜその判断をしたのですか?」 (考えを引き出している) |
「あなたは富士山のガイドです。観光客向けに比喩を使って説明してください」 (役割・対象・形式の指定がある) |
| 改善の方法 | 知識量・思考力・経験 | 制約の追加・条件の明確化 |
| 失敗時のリカバリー | 聞き直しにくい | 何度でも修正可能 |
| 学習への活用 | 理解の確認 | 理解の確認+理解の穴の特定+思考の拡張 |
| AI時代での重要性 | 依然重要 | 極めて重要(AIの出力品質を直接左右する) |
最大の違いは、
人間への質問が「答えを引き出す行為」であるのに対し、
AIへの質問は「出力条件を設計する行為」である点です。
AIは、何を聞いたかだけでなく、
どんな役割で、誰向けに、どのレベルで答えるべきかという
“条件”に強く影響を受けます。
人間への質問力は、生まれつきの認知特性や瞬発的な思考力の影響を受ける部分もあります。
一方で、AIに対する質問力は「条件を設計する技術」であるため、構造を理解し、反復することで後天的に大きく伸ばしていくことができます。
まとめ
「何か質問はありませんか?」
と聞かれても質問が出てこないのは脳の仕組み上ごく自然なこと。
メモを取ることで思考の負荷を減らすことはできますし、
AIを使えば、
- 自分の説明のどこが曖昧かを指摘してもらう
- 理解度を評価してもらう
- 次に考えるべき「良い質問」を提示してもらう
といった形で、「自分の無知」を特定することができます。
AIに対する質問は、人間相手のような瞬発力ではなく、
役割・目的・条件を設計する“技術”。
地道に構造を理解して繰り返せば、「いい質問ですねぇ」と言われるような質問力が徐々に養われていくはずです。
